MITメディアラボの石井裕さんの講演会に行ってきた
マサチューセッツ工科大学のメディアラボから石井裕さんが、国立情報学研究所(NII)のオープンハウスで基調講演をするというので、行ってきました。
この日もTwitterでTsudaってらっしゃる方がいて、このポストの後を追いかけていけば、だいたい流れが追えそうです。また、後日、映像がNIIのサイトでアップされるようです。
さてさて、僕は学生時代にコンピューターを使ったコラボレーションに関心があって、最近、Twitterを使って行われているシンポジウムのライブレポートに近いことを、当時のマッキントッシュを使ってプリミティブな形で試みていました。そんな訳で、NTTのヒューマンインターフェース研時代にClearboardを発表されていた石井裕さんは、当時から憧れの存在で、今日は、とてもミーハーの気持ちでの参加でした。
実際、MITメディアラボのミッションから始まり、タンジブル・ビット(=触れられる情報)という概念の解説、過去から最近の研究成果の紹介、そして研究者として自身の哲学や生き様を語るエンディングまでを、“速射砲”のように畳み掛ける語り口で駆け抜ける、生の石井裕さんのトークライブに、大満足の一日となりました。
そんな盛りだくさんのトピックのなかで、石井裕さんが、紙の本が削ぎ落とした情報や、アナログの本だから持ちえた特性について話されたのですが、それは、最近の僕の関心とも奇妙に一致していて、とても印象に残りました。
石井裕さんは若い頃はユースホステルを頻繁に利用するホステラーで、リュックに文庫本を何冊も詰め込んでは、貧乏旅行に出かけていたそうです。旅の合間に、いくつもの文学作品に出会ったそうですが、宮沢賢治は特に好きな作者で、なかでも「永訣の朝」などは、彼にとって、読んで心を動かされることの原体験となった作品だということでした。その時は、文庫で読むことが当たり前の自明のことで、特に疑問に感じることもなかったのですが、彼がMITメディアラボにヘッドハントされてアメリカに旅立つ前にに、どうしても、立ち寄っておきたくなって、あわただしい時期に訪ねた、花巻市の宮沢賢治記念館、そこで、石井さんは賢治の自筆原稿に出会った。その出会いは、衝撃だったそうです。
宮沢賢治の自筆原稿には、活字になって印刷された文庫本からは消し去られてしまった、書いては消し、書いては消しのプロセスが生々しく存在していた。妹との別離に直面した賢治の感情が、文字の振るえ具合とか、筆圧みたいなもののなかに、生々しく残っていた。そこから生まれる生々しい感動があるのに、なぜ、私たちは、それをこぎれいな明朝体の活字フォントになることを許してしまったのか? なぜ、苦悩のプロセスを消してしまったのか。
その一方で、石井裕さんは、当時、旅の最中に携帯していた文庫本を、今でも捨てられずに大切に取っている。それはアナログの本当の本だったから、書き込みが可能だったし、汗のシミという若き日の自分自身の痕跡もしっかりと残っている。そういった若き日の存在が刻み込まれたものだから、捨てられないと。
この先、電子出版に関わることが多くなりそうな僕としては、この話を聞いて、ある種のシンクロニシティを感じずにはいられず、そういった意味で、今日の石井裕さんの講演会には、当初、期待していた、単なるセンチメンタル・ジャーニー以上の意味が、僕にはあったなと思いました。
ところで、石井裕さんのトークのなかで「プレイヤー・ピアノ」というキーワードが頻繁に使われていました。聞いているときは、そのコンテクストが分からなかったので、帰ってきてから、ネットで検索してみたら、カート・ヴォネガット・ジュニアの小説にそんなタイトルの作品があったんですね。僕はヴォネガットの『プレイヤー・ピアノ』は読んでいないので確かなことは言えないのですが、石井さんはそれとは独立した文脈で語っていて、“Ghostly Presence”(こちらも講演会のなかでの頻出ワードでした)なんかと同じような意味合いで、どちらかと言えば、積極的な意味合いを込めて、使っているように感じたのですが、どうでしょうか。
石井裕さんの講演は、宮沢賢治に後に、若山牧水の詩も「是非、読んでください!」と、更にもうひとつ文学話が続くのですが、それはまた、別の話。
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